岡崎律子、と聞いてピンとくる人はそう多くはないと思います。
 でも、私にとって彼女は本当に、人間として尊敬に値するスゴイ人だったと思っています。
 彼女がどうスゴイのか、私の知る限りのところを語ってみたいと思います・・・

 2004年5月5日、彼女がこの世を去ったと知ったのは、5月12日の朝刊のお悔やみ欄を見てでした。
 あまりにショックで、その日1日は何も手につかず、まともに考えられずにすごした事を憶えています。

 岡崎律子さんを知るきっかけになったのは、アニメ「フルーツバスケット」のオープニング曲、エンディング曲、挿入曲と音楽全般を担当されていたからでした。
 独特のささやくようなウィスパーヴォイスと、どこまでもまっすぐな、前向きな歌詞、女性的な暖かさを感じさせる美しいメロディーに、あっという間にファンになってしまいました。

とてもうれしかったよ 君が笑いかけてた すべてを溶かす微笑みで
春はまだ遠くて つめたい土の中で 芽吹く瞬間を待ってたんだ

たとえば苦しい今日だとしても 昨日の傷を残していても
信じたい 心 ほどいてゆけると

生まれ変わることはできないよ だけど変わってはいけるから
Let's stay together いつも

僕だけに笑って その指で ねえ触って 望みばかりが果てしなく
やさしくしたいよ もう悔やまぬように 嘆きの海も越えていこう

たとえ苦しい今日だとしても いつかあたたかな思い出になる
心ごとすべてなげだせたなら

ここに生きてる意味がわかるよ 生まれおちた歓びを知る
Let's stay together いつも

(for フルーツバスケットより)

 彼女はこの物語のテーマ曲の依頼をうけ、原作を繰り返し読み、完全に自分のものにしてから創作にとりかかっていたそうです。
 そして出来上がった曲は、この依頼をしたアニメ「フルーツバスケット」の大地丙太郎監督が、『今までに聴いたことがないようなアニメ主題歌にして下さい』と、半ば適当に依頼したら、本当に今までにない、想像以上の仕上がりで感動した」という名曲でした。
 この物語のテーマもしっかりと歌詞に織り込みながら、まさに「記憶に残るメロディー」といえる、本当に素晴らしい曲・・・
 完成したオープニングアニメーションとも絶妙にはまり、オープニングを見るだけで物語の本質に触れられるような見事な出来栄えでした。
 私はこの曲だけでも、充分に「岡崎律子」というアーティストに惹かれていました。
 ただ、その後発売されたアルバムは買っていたのですが、やはりフルーツバスケットの曲に勝るものはないのかな〜、なんて思っていました。

 ところが・・・

 彼女が亡くなってから、亡くなるほんのちょっと前に発売された、彼女の参加する女性コーラスデュオ、メロキュアの「メロディック・ハード・キュア」を聞いて、衝撃を受けました。
 このアルバムの中に、自分の命が長くない事をわかった上で書いたとしか思えない予言めいた歌詞が、アルバム中にちりばめられていたのです!(考えてみれば、「メロディック・ハード・キュア」を日本語に直すと「音楽の荒療治」・・・ひょっとすると、そこまで意識していたのでしょうか)
 特に1曲目の「Pop Step Jump!」は、ほとんど決意表明のような、生命力を感じさせる力強い歌詞でした・・・

笑わないで聞いてね 無限を信じてる
誰かのココロ深く 何か 残したいんだ

期待と不安 いつもこの両手に抱えて

迷う時がある 長い夜がある
だけど それは自分次第
どこへでも行ける どこまでも行こう
新しい日への螺旋

いくつもの予言 ちりばめられてる
今 ここに そう 君に
気づいて 気づいて まだ見えてないだけ
芽吹いてるよ inside you

(Pop Step Jump!/メロキュア より)

 彼女の直接の死因は「敗血症性ショック」ということだったので、突然亡くなってしまったものと思っていたのですが・・・
 読売新聞の2004年6月6日付の「追悼渉」のコーナーに、『食欲が衰え、進行の速いスキルス性胃がんと診断されたのは昨年五月。翌月に入院し、症状から薬の副作用まですべて説明を聞いて納得した上で治療を受けた。病室にキーボードを持ち込み、つかれたように作品を量産した。見かねた母の輝子さん(73)にも、「いいものを残しておきたいから頑張る」と言って、創作活動を続けた。』とあり、彼女が自分の残された時間を、作品をこの世に送り出すことに注ぎ込んでいたということを知りました。

 すごい・・・あの小柄な体のどこに、こんなすごい事ができる力が潜んでいたのでしょう!
 たしかに、2003年から2004年にかけて、彼女が携わった作品はものすごい数にのぼります。
 メロキュアの「メロディック・ハードキュア」とPC音楽ゲーム「シンフォニック=レイン」のサントラ、堀江由衣への楽曲提供・・・そしてさらに、2004年6月に発売が予定されていた自らのオリジナル・アルバムと、病床にふしていたとは信じられないほどの数の曲を作っていたのですから、本当に驚きです。
 6月発売予定だったアルバムは、彼女の死によって発売延期されてしまいましたが・・・

 「メロディック・ハード・キュア」に衝撃を受けてから、彼女の残した作品を集めようと思い、まずは「シンフォニック=レイン」のサウンドトラックを購入しました。
 すると・・・このアルバムは、まさに彼女の「遺言」とも言えるものでした。
 このアルバム自体はゲーム中のキャラクターを演じた声優さんが歌を歌っているもので、岡崎律子さんは全曲の作詞、作曲、コーラスを担当していました。
 その中の2曲目、「I'm always close to you」はもう・・・最初に聞いたときはさすがに涙、涙・・・でした。

明日などないかもしれないのに
どうして 今日を過ごしてしまう
今がすべてと ちゃんと知っていたはずなのに

あせる気持ちがあった
どれも選べず 全部をやりたかった
素敵なことは めまぐるしくやってくるのよ

行きつけない時は ゴールが欲しくて
ただ もどかしく もがいて走った
ゴールが見えると 今度は惜しくて
もっともっといたい
まだ続けていたいって 思うのね

I'm all right
I love you
I love my life
I'm always close to you

ごめんね お別れが突然で
今は ちょっとね 寂しいけど
悲しみじゃないの
いつか ちゃんと思い出になる

約束 お願いはひとつだけ
生きて 生きて
どんな時にも なげてはだめよ
それは なによりチャーミングなこと

(I'm always close to youより)

 
 自らの命をかけたメッセージでもあり、とても重い言葉なはずなのに・・・彼女独特の柔らかいメロディーに包まれて、すこしも重苦しくありません。
 歌詞を意識せずメロディーだけ聞いていると、そのメッセージを聞き逃してしまうほどに。
 「それは なによりチャーミングなこと」というところがとても律子さんらしい、かわいらしい表現で好きですね。
 ただ・・・この曲を作っているときの気持ちはどんなだったろうと思うと・・・胸が締めつけられるような、切ない気持ちでいっぱいになります。

 自分の命が短いことを知ったうえで、そのことを真正面から受け止めていなければ決して書くことはできない歌詞だと思うし、実際に歌うなんてことはできないんじゃないかと・・・本当に、強い人だったんだなぁ・・・こんなことができる人がいたなんて・・・本当にスゴイ。


 この「シンフォニック=レイン」に収録されている曲は、6月に発売される予定だった「岡崎律子アルバム」では、本人の歌により作り直して収録される予定でした。
 ところが、アルバムが完成する前に律子さんが亡くなってしまい、発売が延期になってしまいました・・・


 そのアルバムが、彼女が生前信頼を寄せていたスタッフにより完成され、2004年の12月29日に発売になりました。
 アルバム名は、「for RITZ」
 「RITZ」とはもちろん、岡崎律子さんのファンのことです。

 12月29日は、岡崎律子さんの誕生日でした。
 スタッフが「胸を張って本人にお渡しできる」というほどの、最高のバースデープレゼント!

 もう、この先彼女の新しい作品がリリースされることはないことを考えると寂しい気持ちにもなりますが・・・
 彼女が本当に伝えようとした最後のメッセージを大事に受け止めることが、何よりの彼女へのプレゼントじゃないかな・・・と思います。
 彼女自身の声で、そのメッセージを聞くことができるようになったことは、本当に素晴らしいことです。
 手がけたスタッフの方々は辛かったでしょうが・・・ファンの手元にこの作品を届けてくださったことに、感謝せずにいられません。

 このアルバムには先に書いた「I'm always close to you」も、彼女のヴォーカルで収録されていました。
 どうしてかはわかりませんが、「今がすべてと ちゃんと知っていたはずなのに」というところが「今がすべてと そう思って生きてみるの」になっていました。
 最初に聞いたとき、さすがに涙が出ました・・・


 そしてさらに、「いつでも微笑みを」という曲にも、メッセージが残されていました。

もう行くね きりがないでしょう さぁ もうここでいいから

最後まで言えないことがあった
でも すべて告げるのがいつもいいとは限らないの

いつかは わかるから 大丈夫 すべてが わかるから

さよなら 青い空はまるで祝福 旅立ちね
雨なら 晴れの日に焦がれ 晴れ続きだと また 雨が恋しくて

私は ねえ つよかった? いいえ いつも揺れていたのよ

どうしてもひとりじゃだめな夜は 記憶の箱を開けて
少しだけ そこで逢いましょう どんなことも一晩中だって打ちあけてね

でも

涙で終えてはだめよ きっと 笑って箱を閉じて
だって 時間と 人も流れてくの 素直に受けとめて

いつでも微笑みを

(いつでも微笑みを より)

 現実として残された作品の数々を聴くと「本当にスゴイ、強い人だったんだ」と思うしかないのですが・・・彼女の中にも迷いや弱さがあったんだということが伝わってきます。
 でも・・・やはり、律子さん、あなたは本当に強い人だったんだと思います。

 たとえば自分が、自分の命の先が短いと知らされた時・・・どうするでしょう?
 少なくとも、自分の仕事に打ち込むという選択肢は想像できないし、「良いものを残したい」と思うことができるとはとても思えません。(アーティストじゃないんだから当然といえば当然ですけど)
 自分の境遇を呪ったり、嘆いたりするくらいしかできないのではないでしょうか・・・

 そんなときにも前向きに、ひたむきに自分の好きなことに向かい合い、最後まで全力で突き進むことができる人が、この世にどれだけいることでしょう?
 少なくとも私は、そんなすごいことをやってのけた人を他に知りません。

 最後に、メロキュアの名曲、「Agape」(「Agape」とは「無償の愛」という意味です)の

Would you call me if you need my love?
どこにいたって聞こえる
君がくれるAgape 力のかぎり Dive!

信じる 応える その瞬間
愛が 僕らを ひとつにする

Time is now Time is now どこまでも生きて

(Agape/メロキュアより)

 という歌詞の「君」は、私にとっては「岡崎律子さん」以外の誰でもありません。
 「どこまでも生きて」欲しかったですけど・・・

 彼女を知る人は、彼女について「天使か、妖精のよう」と形容したそうです。
 私も、彼女が出演したラジオを聞いたとき、彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているような、不思議な感じがしたのを憶えています。
 「天使か、妖精のよう」と言われると、「なるほど!」と思わせる雰囲気を持った人でした。
 できれば、一度でいいから直接会って、話をしてみたかった・・・

 私は、決して忘れることはないでしょう。
 岡崎律子さんという、本当の意味で強い人がいたことを。
 彼女が素晴らしいアーティストだったということを。

 できれば、少しでも多くの人に知ってもらいたくて、このページを作りました。

 律子さん、安らかにお眠りください・・・


岡崎律子さん関連リンク

岡崎律子BOOK
岡崎律子さん本人によるホームページ。日記のコーナーは亡くなる1週間前に更新されている
メロキュア
コロムビアレコードのメロキュア紹介ページ
スターチャイルドレコード
所属レコード会社、スターチャイルドレコードの岡崎律子さんのコーナー。「for RITZ」の紹介
追悼特集 岡崎律子
オンラインCDショップ、Neowingによる岡崎律子さんの追悼ページ
meg rock official site
メロキュアの相棒、日向めぐみのオフィシャルサイト。律子さんが亡くなった時の日記は今見ても泣ける(T-T) 「あたしのいとしいかけらのこと」も見てほしいですね。胸が締め付けられるような切なさを感じます。
Ritzstar
岡崎律子データベース&非公式ファンサイト